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連載|マレーシア移住シリーズ 第2回

【2026年版】マレーシア税制完全ガイド|外国所得非課税・CGT 0%・RPGT・183日ルール徹底解説

マレーシア税制節税外国所得2026年版
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WealthAtlas 編集部国際税務リサーチチーム
公開:2026-04-20
最終更新:2026-04-20
読了:約16分

マレーシアは、日本の全世界所得課税から合法的に離脱したい富裕層にとって、東南アジアで最も完成度の高い税制を持つ国の一つです。外国所得は原則非課税、キャピタルゲイン税(CGT)は個人レベルで0%、相続税・贈与税は1991年に廃止済み。

一方、日本から移住する際には出国税(国外転出時課税制度)183日ルール日本・マレーシア租税条約など複数の制度が絡みます。本稿は、税制の全体像を「日本居住者がマレーシアに移住する」視点で徹底解説します。

結論|日本居住者目線で見たマレーシア税制の優先順位

1
外国所得非課税(FSI免除)— 2024年1月〜恒久化
日本の配当・利子・キャピタルゲイン・年金がマレーシアで原則非課税。日本の累進55%→マレーシア0%の税率差を合法的に享受できる。
2
相続税・贈与税なし — 1991年廃止
日本の相続税最高55%と対極。家族への資産移転・事業承継でマレーシア居住者となる戦略が成立。
3
RPGT 5年保有ルール — 6年目以降0%
マレーシア不動産は5年保有後に譲渡すれば、キャピタルゲイン税ゼロ。MM2H居住とレバレッジ投資を組み合わせた中期戦略が最適。
マレーシア税制の恩恵を受けるには、日本側で非居住者となる実体移転と、マレーシア側で税務居住者証明(Tax Residency Certificate)を取得する両輪が必要です。片方だけでは二重課税リスクが残ります。

マレーシア税務居住者の判定|183日ルール

マレーシアの税務居住者判定は、日本よりも明確で機械的です。Income Tax Act 1967 Section 7により、以下のいずれかを満たす者が居住者(Resident)となります。

判定基準要件該当すれば居住者
基本ルール(7(1)(a))当年暦年中に182日超滞在Yes
前年からの連続(7(1)(b))当年一部滞在+前年末から連続滞在Yes
3年ルール(7(1)(c))直近3年のうち2年で90日超滞在Yes
4年ルール(7(1)(d))当年全期間不在でも、前後4年間のうち3年が居住者なら継続居住者Yes
居住者・非居住者の違いは大きく、非居住者は一律30%課税に対し、居住者は累進0〜30%+各種控除適用。MM2H保有者でも、年間183日以上滞在しなければ税務居住者にならない点に注意。

個人所得税|累進0〜30%、日本より大幅に軽い

マレーシア居住者の個人所得税は、最高税率30%(日本は55%)。しかも課税対象は原則マレーシア国内源泉所得のみで、外国源泉所得は非課税(詳細は次章)。

課税所得(RM)税率日本円換算(目安)
最初の RM 5,0000%〜165万円
RM 5,001〜20,0001%165〜660万円
RM 20,001〜35,0003%660〜1,155万円
RM 35,001〜50,0008%1,155〜1,650万円
RM 50,001〜70,00013%1,650〜2,310万円
RM 70,001〜100,00021%2,310〜3,300万円
RM 100,001〜400,00024%3,300万〜1.32億円
RM 400,001〜600,00025%1.32〜1.98億円
RM 600,001〜2,000,00026%1.98〜6.6億円
RM 2,000,001以上30%6.6億円〜
比較:日本の最高税率は所得税45%+住民税10%=55%。マレーシア30%との差は25ポイント。年収3億円のケースで、日本1.65億円納税→マレーシア9,000万円納税の差額7,500万円(この恩恵は国内源泉所得のみだが、外国源泉所得なら0%でさらに大きい)。

外国所得非課税(FSI免除)|2024年1月恒久化の実務

マレーシアはかつて「領土課税(Territorial Tax)」として外国源泉所得を完全非課税としていましたが、OECD BEPS対応で2022年に課税方針転換。しかし投資家離反を受けて段階的に免除措置を拡大し、2024年1月からは個人の外国所得は実質恒久免除となりました。

所得種類個人(居住者)法人条件
外国配当(上場株)0%0%(条件付)受領時に外国税課されたことの証明
外国利子0%条件付免除銀行利子は実質非課税
外国キャピタルゲイン0%0%(経済実体テスト)個人は完全非課税、法人は経済実体要
外国年金0%日本の年金も送金時非課税
外国賃料収入0%条件付日本の不動産賃料も対象
外国事業所得(アクティブ)ケース判断経済実体テスト必要マレーシアで意思決定される場合は課税リスク
01

免除の要件:送金の有無を問わない

以前は「送金免除(Remittance Exempt)」ルールがありましたが、2024年以降は送金してもしなくても非課税。日本の口座に配当を受け取り、一部をマレーシアに送金するパターンでも課税されません。
02

法人の経済実体テスト(ESR)

法人がFSI免除を受けるには、マレーシアでEconomic Substance Requirement(経済実体要件)を満たす必要あり。従業員・オフィス・意思決定の実態が必要で、ペーパーカンパニーは対象外。個人は経済実体テスト不要。
03

外国税額控除(FTC)との関係

日本で源泉徴収された配当税(15.315%)は、マレーシアで外国税額控除は不要(そもそも非課税のため)。しかし日本の税制上、非居住者認定後は源泉税率が租税条約で軽減されるため、日本側の手続きを忘れずに。

キャピタルゲイン税(CGT)|個人は原則0%

マレーシアは個人のキャピタルゲイン税を原則課税していません(不動産譲渡益税RPGTは別枠)。2024年以降、法人の非上場株譲渡益について2%の限定的CGTが導入されましたが、個人への影響は軽微です。

資産種類個人法人備考
上場株式0%0%Bursa Malaysia上場含む
非上場株式(マレーシア)0%2%(2024年1月〜)譲渡価額または譲渡益のうち低い方
非上場株式(海外)0%FSI免除対象(要件あり)経済実体テスト
暗号資産0%事業なら課税個人の投資行為は非課税
金・貴金属0%事業なら課税投資目的の個人保有は非課税

RPGT(不動産譲渡益税)|6年目以降は0%

RPGT(Real Property Gains Tax)は不動産と不動産会社株式の譲渡益に対する課税。保有期間が長いほど税率が下がる設計で、6年目以降は外国人でも0%になるのが最大の特徴です。

保有期間マレーシア人・PR外国人・非居住者会社
3年以内30%30%30%
4年目20%30%20%
5年目15%30%15%
6年目以降0%10%10%
MM2H保有者は「外国人」扱いのため、6年目以降でも10% RPGTが残ります。一方、マレーシアPR(永住権)取得者は0%になるため、長期投資家はPRルートを並行検討する価値があります。
01

RPGT節税の3つの王道

5年超保有でRPGTを10%に固定、②譲渡費用(エージェント手数料・法律費用・改装費)の控除で課税ベースを圧縮、③RM 10,000または譲渡益の10%のいずれか大きい方の免除額を活用。

相続税・贈与税|1991年廃止、日本との差は最大55%

マレーシアは1991年に相続税(Estate Duty)を完全廃止。贈与税も同時期に廃止され、現在は家族間の資産移転に対する課税は原則ありません。

日本の相続税は最高55%。6億円超の資産では約3億円が相続税として徴収されます。マレーシア居住者(かつ日本の非居住者)になっていれば、マレーシア国内資産については相続税ゼロ。日本側の相続税も、被相続人・相続人の両方が10年超マレーシア居住(かつ日本の非居住者)なら、日本国外資産は課税対象外となる可能性があります(実務は複雑、専門家確認必須)。

SST(売上・サービス税)|日本の消費税に相当

マレーシアには日本の消費税に相当するSST(Sales and Service Tax)があり、2024年3月に税率改定されました。

種類税率対象
Sales Tax(売上税)5% / 10%製造業者・輸入業者の売上
Service Tax(サービス税)8%レストラン・ホテル・エンタメ等
Service Tax(高級)10%高級ホテル・ゴルフクラブ・高級輸送等
生鮮食品・必需品0%米・小麦・鶏肉・野菜等は免税

法人税|標準24% / JS-SEZ 15% / ラブアン 3%

マレーシアの法人税は選択肢が豊富。本土24%JS-SEZ 15%ラブアン 3%(または固定RM 2万)SME最初のRM 60万は17%と、事業内容に応じて最適化が可能です。

法人種別税率用途
本土標準法人24%一般事業会社
SME(RM 60万超部分)24%売上RM 5,000万以下のSME
SME(RM 15万超〜60万部分)15%中小企業段階税率
SME(最初のRM 15万)15%中小企業優遇
JS-SEZ指定業種15%ジョホール・シンガポールSEZ
MSC ステータス(Cyberjaya等)10%IT・デジタル事業
ラブアン(オフショア金融)3% or RM 20,000固定純投資持株・保険・海運等
Bionexus ステータス0%(10年)バイオテック・ライフサイエンス
配当税(源泉)0%単一税制(株主に対する源泉なし)
ラブアン(Labuan)は、マレーシア領の特別区で、国際取引法人は法人税3%または固定RM 2万(約66万円)のいずれか選択。純投資持株会社(Investment Holding Company)として活用すれば、配当源泉税ゼロ+外国源泉所得非課税の恩恵を受けられます。日本居住者には人気の節税スキームですが、日本側のCFC税制(タックスヘイブン対策税制)で合算課税されるリスクに注意。

日本側の論点|出国税・183日ルール・租税条約

マレーシア税制の恩恵を受けるには、日本側で非居住者として扱われることが前提です。日本の税法上の非居住者判定は「生活の本拠」の実体判断で、以下4つの論点が最重要です。

01

出国税(国外転出時課税制度)— 2015年7月導入

1億円以上の有価証券・匿名組合出資・国外転出時に譲渡益が発生するであろう資産を保有したまま出国すると、時価での譲渡益が課税されます。最高税率20.315%。担保提供で最大5年(延長すれば10年)の納税猶予も可能ですが、期限内に売却しない場合は猶予課税が確定します。移住前に税理士と資産棚卸しが必須。
02

日本・マレーシア租税条約(1999年締結・2010年改定)

条約により、日本源泉の配当・利子・使用料は以下の軽減税率が適用されます:
  • 配当:一般10%、親子会社間5%
  • 利子:一般10%、政府向け0%
  • 使用料:10%
マレーシア居住者として日本から配当を受け取る場合、源泉徴収は20.42%→10%に軽減。日本の支払者に「租税条約に関する届出書(Form 17)」を提出することで適用されます。
03

183日ルール(日本側の概念は異なる)

日本の税法上、183日ルールは形式的な判定基準ではなく、「生活の本拠」の実態判断の一要素に過ぎません。出国時の住民票除票・住居処分・家族同伴・職業基盤の移転・資産の配置・日本国内の社会保険脱退、これらを総合的に判断されます。
04

相続税の10年ルール

被相続人・相続人ともに10年超にわたり日本に居住していない場合、日本国外の資産は日本の相続税の課税対象外となります。ただし、日本国内の資産は引き続き課税対象。不動産・日本法人株・日本の預貯金は、移住後も相続税リスクが残る点に注意。

失敗パターン|マレーシア税制の「落とし穴」

183日滞在せずに居住者扱いを主張する

よくある失敗パターン

MM2Hを保有しているだけで、年間183日未満の滞在しかしていない場合、マレーシア税務居住者には認定されず、非居住者の30%フラット課税が適用される。外国所得非課税の恩恵も受けられない。

回避策

マレーシア税務居住者になるには、暦年中の183日超滞在が原則。出入国記録を月次で管理し、年末までに183日を超えるよう計画。Tax Residency Certificate(TRC)をIRBMから取得して、居住者性を対外的に証明。

ラブアン法人を日本でCFC合算される

よくある失敗パターン

ラブアン法人で3%の低税率を享受しようとしても、日本居住者の実質支配下にあれば、日本のCFC税制(タックスヘイブン対策税制)により日本で合算課税。節税効果が消滅する。

回避策

ラブアン法人を活用するなら、日本の非居住者化を先行完了。実質支配者・実質管理者がマレーシア居住者であることを経済実体で立証できる体制に。

日本の住民票を残したまま「マレーシア居住」を主張

よくある失敗パターン

「いつでも戻れるように」と日本の住民票を残すと、日本の税法上の居住者扱いが継続。全世界所得課税+マレーシアの所得税の二重課税リスク。

回避策

移住時に住民票除票を実行し、日本国内の恒久的住居を処分または賃貸化。家族同伴での移住が最も実態を強化する。

FSI免除の経済実体要件(法人)を満たしていない

よくある失敗パターン

マレーシアに法人を設立して外国配当を受けようとしたが、オフィス・従業員・意思決定の実態がなく、FSI免除が否認されて24%課税される。

回避策

法人ルートでFSI免除を受けるなら、Economic Substance Requirement(ESR)を満たす体制を先に構築。個人名義で保有すれば、経済実体テストは不要。

出国税を払わずに移住して後で追徴

よくある失敗パターン

1億円超の有価証券を保有したまま出国届を提出し、出国税を申告していないと、日本の国税庁から追徴課税+延滞税+重加算税の対象に。

回避策

出国1年前に資産棚卸しを行い、出国税対象資産の時価を把握。納税資金を確保するか、担保提供による納税猶予を事前申請。

よくある質問(FAQ)

Q1.日本の配当・年金はマレーシアで課税されますか?
日本源泉の配当・年金は、マレーシア税務居住者となれば、マレーシア側では原則非課税(2024年1月以降のFSI免除制度)。ただし日本側で源泉徴収(配当20.42%、年金は10%)が発生し、租税条約の適用で軽減税率を取得できます。租税条約届出書の提出で、配当20.42%→10%に軽減可能。
Q2.マレーシアで日本の株式・投資信託を売却した利益は?
日本の証券会社を経由した取引で発生するキャピタルゲインは、日本の非居住者(かつマレーシア居住者)であれば、日本側は原則非課税(国外転出時課税制度の対象資産は除く)、マレーシア側もFSI免除で非課税。ただし出国税の対象資産(1億円超の有価証券等)は、出国時点で課税済みであることが前提。
Q3.マレーシア居住者が日本に帰省した場合、日本の居住者に戻りますか?
短期帰省(数週間〜1ヶ月程度)は問題ありません。ただし日本国内に恒久的住居を保持しており、頻繁に帰省している場合は、日本側で居住者判定されるリスクが高まります。帰省は年間90日以下、家族同伴の場合はより短期間に抑えるのが実務上の目安。
Q4.日本の不動産を保有したままマレーシアに移住できますか?
保有は可能ですが、日本国内の賃料収入は日本の源泉所得として日本で20.42%の源泉徴収+確定申告の対象。マレーシア側では外国源泉所得としてFSI免除の対象となり、マレーシアでは非課税。相続時は日本の不動産は相続税の対象となり続けるため、長期的には売却または法人化を検討。
Q5.マレーシアで子供が生まれた場合の国籍は?
マレーシアは血統主義のため、マレーシアで出生しても日本人両親の子は日本国籍のみ。マレーシア国籍は取得できません。出生届は在マレーシア日本大使館・総領事館で3ヶ月以内に提出必要。教育はインターナショナルスクール(英国系・米国系・IB)が主要選択肢。
Q6.マレーシアでの確定申告は必要ですか?
マレーシア居住者は毎年4月30日までに前年の確定申告(Form BE)を提出。課税所得がRM 34,000以下(概算控除適用後)なら申告不要。e-Filing(電子申告)が標準で、英語対応。タックスリターンプレパラー(税理士)に依頼する場合、年額RM 1,000〜3,000が相場。
Q7.二重課税条約で救済されない所得はありますか?
租税条約は大半の所得に適用されますが、以下は例外的なケースあり:
  • 日本の出国税(国外転出時課税制度)は条約対象外
  • 日本の不動産賃料・譲渡益は源泉地課税の権利が日本に残る
  • 日本の相続税は通常の租税条約の対象外で、別途「相続税条約」(日米間などごく限定的)のみ
複雑なケースは、日本・マレーシア両国の国際税務に詳しい税理士に依頼を推奨。

主要出典・参照

出典・参考文献

  1. [1]Inland Revenue Board of Malaysia(LHDN):Income Tax Act 1967
  2. [2]LHDN:Public Ruling No. 12/2023 — Foreign Source Income
  3. [3]LHDN:Real Property Gains Tax Act 1976 & Amendments
  4. [4]LHDN:Service Tax Act 2018 and 2024 Amendments
  5. [5]Labuan IBFC:Tax Framework Guide 2026
  6. [6]日本国税庁:国外転出時課税制度ガイドブック
  7. [7]日本国税庁:租税条約に関する届出書(Form 17・別表)
  8. [8]日本・マレーシア租税条約(1999年締結、2010年改定議定書)
  9. [9]OECD BEPS Action 5:Harmful Tax Practices — FSI免除の国際基準
  10. [10]Bank Negara Malaysia:Foreign Exchange Administration Rules
  11. [11]Ministry of Finance Malaysia:Budget 2026 Tax Measures
  12. [12]Johor-Singapore Special Economic Zone:Tax Incentives(2025年1月)
執筆 EDITORIAL TEAM
WealthAtlas 編集部
国際税務リサーチチーム

43カ国×21資産を横断調査するWealthAtlasの編集チーム。日本・マレーシア両国の税理士・会計士ネットワークに基づき、国際税務・移住実務の情報を毎日更新しています。

本稿は2026年4月20日時点の調査に基づきます。税制は頻繁に変更され、個別の税務判断は個人の状況により異なります。移住・節税戦略の実行前に必ず資格を持つ日本の税理士およびマレーシアの会計士に確認してください。本記事は情報提供を目的としており、個別の税務助言ではありません。